ヒルデガルトの『病因と治療』の要点を分かりやすく解説

こんばんわ🐷

 

ハーブについて勉強していると

歴史上の偉人として必ず出てくる

聖ヒルデガルト。

 

代表著作『病因と治療』って

どんな本なのでしょうか?

 

 

 

「小難しげで全然わかんない…」

 

手に取ったほとんどの方の感想は

コレではないでしょうか。

 

今回は、ヒルデガルトの

『病因と治療』について、

中学生くらいでもわかるように

解説します。

 

本の値段は¥7,500で、合間を縫って

3日くらいかけて読みましたが、

このブログを見れば無料で要点が

分かるので大変お得な記事です 笑

 

解説を読んだうえで『病因と治療』

を改めて読むと、スラスラと

読みやすくなると思います。

 

これから項目に分けて解説しますが、

色字、太字のみをサーっと

流し読みしていただいても大丈夫です。

 

※私自身、他の代替医療や学問について

 知識が浅いところもあるので、

 拡大解釈はせず(できず)、

 極力本の内容に沿って読み進めます。

 

🌿聖ヒルデガルトってどんな人?

 

 

ヒルデガルト・フォン・ビンゲン

(1098年-1179年)は、ドイツ・

ベネディクト会修道院(カトリックの

中でも最も古く戒律が厳しい宗派)の

院長だった女性。

 

ベネディクト会修道院は戒律が厳しく

原則、一生修道院の中で過ごさないと

いけないという環境でした。

 

女性で史上4人目の教会博士という

称号をつけられましたが、

同時に預言者・視幻者・作家・医師・

薬剤師・音楽家・劇作家と非常に

マルチな才能をもった方でした。

 

10人兄弟の末っ子で生まれ、

3歳頃から病弱だったそうですが

なんと81歳まで長生きしました。

 

昔は、長く生きられる可能性が今より

はるかに少なく、避妊技術も発達

してていなかったこともあり、多産

だったそうです。

家康もびっくりのご長寿おばあちゃん

ですね。。。

 

ヒルデガルトは、3歳、42歳の時に

幻視(“ヴィジョン”)体験をします。

 

 

「天から光が差してきて、

頭や心臓、胸などに降り注ぎ、

詩編や聖書をいかに説明されるかが

与えられた」んだそうです。

 

悟りをひらいた、みたいな

感じでしょうか…。

 

この体験をもとに

『道を知れ(Scivias)』を執筆。

 

『病因と治療』に出てくる様々な

療法も神の啓示によるものと

ハッキリ書かれています。

 

つまり、ヒルデガルトとしては

決してフィクションを書いている訳

ではなく、神の声にしたがって本を

書いて情報をお伝えしていますよ、

というスタンスなのですね。

 

🌿聖ヒルデガルトと時代背景

 

 

ちょっと世界史的な話になります。

 

ヒルデガルトの生きた12世紀の

ヨーロッパは、ちょうど暗黒時代の

後期にありました。

 

ローマ帝国が東西に分裂後、

文化や道徳が廃れ、政治・経済も

混乱にあった暗黒時代が、

約1,000年も続いたといわれます。

(日本では、平安時代の末期頃)

 

この間は、カトリックが大きな勢力を

もち、異端とされる思想をもった教徒

には、「えーいやっちまえ!」と強引

に拷問したり処刑したりといった、

異端審問が横行する、非常に

血なまぐさい時代でした。

 

この混乱の時代に、医療の根幹を

担ったのは各地の修道院で、

ハーブを栽培し、人々の治療を

行っていました。

 

 

これが“修道院医学”と呼ばれました。

 

ちょっと長くなりましたが、

いよいよ本編の解説です。

 

 

🌿『病因と治療』の構成と要点

 

🌼本の構成について

 

『病因と治療』は、翻訳者のまえがき

に続いて、

BOOKⅠ~Ⅴの5章立て

で展開されています。

 

タイトルが『病因と治療』
だから、色んな病気の原因と
ハーブを使った治療法が
書かれてるのでは?

 

…と予測する人が多いかもしれません

 

が、

 

その内容に辿り着くのは、

3章(BOOKⅢ)からなんです。

 

本全体のボリュームからすると、

具体的な症例と治療法に触れている

のは後半わずか1/3程度です

 

終盤にくるまで、ハーブの話は

いっこうに出てきません。

 

じゃあ、何がその前に

書かれているのか?

 

本の書き出しは

“世界の創造”に始まり、

 

宇宙、元素、自然、宗教的な話、

そして人はなぜ病気になるのか

という流れで、話題が推移していきます。

 

最初が非常に抽象的なのが、

この本が難しそうに見える原因

だと思います😭

 

話が進むにつれて話題のスケールが

小さくなっていき、具体性が高まって

いく構成す。

 

もう少しツッコんで言うと、

同じ事象を、徐々に次元を小さく

しながら繰り返し説いている感じです。

 

 

最初はよく分からないかもしれませんが

「ふーんそうなんだ~」くらいに

思っておいてください。

 

それでは、キーワードとともに

読んでいきます。

 

🌼要点

 

🔑キーワード1:4つの元素と調和

 

 

ヒルデガルトは、4つの要素の調和の

重要性を説いています。

 

まず、この世の万物をつくる元素は

「火・空気・水・土」

これらは互いに絡み合い

結合しあっています。

これらを司っているのは、神。

 

空気なくして火はなく、

水なくして空気はなく、

土なくして水はない。

よく調和して節度を保ち、

協調しあっているものだ

とあります。

 

この秩序が保たれなくなり調和が

乱れると、世界は順調に機能

しなくなるのだそうです。

 

 

4つの元素の関係性のなかで、

たとえば自然現象があり、

雨が降ったり風が吹いたり

嵐が来たり雷が落ちたりする。

 

人間が悪いことをすると、

神の懲罰として元素が働き、

火は槍のように、空気は刀のように、

水は盾のように、土は投げ槍のように

なり、大雨や洪水など、

人間にとって厳しい自然現象

として現れる。

 

人間もまた、4つの元素で

構成されており、熱と視覚(火)・

呼吸と聴覚(空気)・血と可動性(水)・

肉体と歩く力(土)を元素から

得ている。

 

後でふれますが、実はこの4元素は

人間の健康を支える4つの粘液の、

 

①「乾いた体液(火)」

②「湿った体液(空気)」

③「生ぬるい体液(土)」

④「泡立った体液(水)」

と対応しています。

 

受胎における人間誕生の際、

その人の「意思(火)」

「思慮(空気)」「力(水)」

「同意(土)」が作られるとも

書いています。

 

もう一つポイントとしては、

ヒルデガルトはこれら4つの元素を

すべて横並びの関係性として描いて

いないという事。

なかでは、火に一番優位性

持たせています。

 

 

同じように本書のなかでは、

要素や対になる概念がたくさん

でてきます。

 

神と人間、太陽と月、光と影、

男と女、神と人、魂と肉体、肉と血、

甘いと苦い etc… といった具合に。

 

ただ、元素も対になる概念も、

優位度合はありながらも完全な

主従関係として位置付けておらず、

すべてが共存関係にあり、

どれか一つが欠けても全体として

バランスを崩してしまうと言われています。

 

🔑キーワード2:宇宙の入れ子構造

 

 

上で見てきた通り、

宇宙も人間も、元素の調和という

大きな流れのなかで生きています。

 

ヒルデガルト曰く、

“すべての被造物は人間の内にあり、

人間とは、万物を内に孕む存在”で

人間もまた、4つの元素を内に内包している“

 

宇宙と人体は、スケールが全然

違うもののように見えて

実は共通点がいっぱいあるんです。

 

たとえば、

・太陽が月に光を送る様子
 =男性から女性への射精、
 
・天空=人間の頭、太陽や月=目、
 空気=聴覚、風=嗅覚、露=味覚、
 世界の縁=両腕あるいは触覚
 
・生理周期=月の満ち欠け
 
・出産=“アダムの脇腹からイヴが
 生まれた、あの永遠の力”の再現

 

などとなぞらえ、ヒルデガルトは

宇宙と人間の生命の営みに共通点を

見出します。

 

たしかに考えてみれば、

人間から見ると宇宙は果てしなく

大きい存在に見えるかもしれませんが、

 

たとえば人間の体内にある37兆個に

あたる1個の細胞くんからすれば、

人体もまた莫大な宇宙に見える

んでしょうね。

 

 

でも、その細胞の一つ一つが

突然変異して癌になってしまったり

おかしくなると、人体全体の健康が

損なわれてしまう。

 

つまり、

人間もまた、リトル宇宙

だということです。

 

個人的には、ここまで理解したとき、

『鋼の錬金術師』で、エドとアルが

師匠から課された試練を耐え抜き、

“一は全、全は一”の意味を悟った

シーンを思い出しました。。。

 

そもそも、この本の表紙の絵。

 

 

一番上に顔だけにょっと出ているのが

父なる神、そのすぐ下の赤い炎を両腕に

している青年がイエス、輪の中で両手を

広げているのが人間を表しています。

人間の後ろにある円が地球。

 

絵のなかで、人間が世界を網のように

手の内にかかえ、動かす男のように

立っている。

 

たしかに人間は小さいけれど、その内に

万物を秘めていて、世界の創造の完成に

参加する存在だと、前書きで解説されて

います。

 

つまり、果てしない宇宙の営みは、

入れ子構造になっているという事なんです。

 

 

壮大なマトリョーシカみたいな感じですね。。

 

🔑キーワード3:原罪と病気

 

そもそも

人はなぜ病気になるのか。

 

この問いに、ヒルデガルトは

明確な答えを出しています。

 

人間が病気になるのは、

アダムが罪を犯したから

 

 

神はエデンの園にアダムを

土から造りました。

 

エデンの園には、命の木と

善悪の知識の木があり、

 

神は

 

「死に至るので善悪の知識の

木のリンゴだけは絶対に食べないで」

 

とアダムに命じました。

 

そして、アダムのあばらからイヴが

生まれてきました。

 

ところが、イヴが蛇から

 

「善悪の知識の木のリンゴを食べたって

死にはしないよ、食べちゃえよ」

 

とそそのかされ、禁じられていた

リンゴを口にしてしまいます。

 

そして、アダムもイヴから

勧められて食べてしまいます🍎🐍

 

これがいわゆる原罪で、

人は最初から罪を背負って生を

受けているというキリスト教独特の

考えがあります。

 

この原罪が原因で、

 

・一日中昼だけだったのが、夜が生まれ、

・子を生むという汚れなき本性(セックス)が
 性愛へと変わってしまい、

・アダムの悲しみと絶望・人間の疑念と

 不信が生まれ、

胆汁は苦いものに、黒胆汁は

 邪悪なものへと変化した

 

とあります。

 

こうして、アダムは楽園を

追放されてしまいました。

 

🔑キーワード4:4つの体液の調和と健康法

 

ここから、ちょっと具体的な話に

なり読むのが楽になります😀

 

人間の健康を保つためには、

4つの体液のバランスが保たれている

ことが不可欠だと書かれています。

 

このいわゆる四体液説はヒポクラテス

が最初に提唱した思想です。

 

4つの体液とは、

「乾いた体液」

「湿った体液」

「生ぬるい体液」

「泡立った体液」で、

それぞれ火・空気・土・水の

4元素と対応しています

 

ただ、すべての体液が同じ量ではなく、

1番優位な体液が2番目より3/8だけ

多く、次いで2番目、3番目、4番目の

体液が続く理想的な比率があるそうです。

 

上位2つの体液を粘液

下位2つの体液はリヴォル

と呼びます。

 

リヴォルとは、「ぬめり」を意味し、
リンパや膿といった、毒素のような
イメージだそうです。

 

人によってどの体液が多いかは

異なっていて、性格や才能でいうと

 

乾いた体液(火)が優勢な人は
技芸(アート)を学ぼうとする傾向が強く、
学んだことをしっかり覚えている。

湿った体液(空気)が優勢な人は
器用に技芸を学び取る傾向があるが、
知識は長続きしない。

泡立った体液(水)が優勢な人は、
素早く技芸を学び取る傾向にあるが、
十分に学ばず、分かっていると思い込む節があり、

生ぬるい体液(土)が優勢な人は、
技芸を学ぶのが困難で、
覚え続けていることもできない、
ただ、大地に関連することや世俗的な
ことがらについては時として
分別を示すことがある。

 

といった具合に書かれています。

(やはり火が一番で、土は散々…)

 

本のラスト1/3では、様々な病気に

応じて

これらの体液のバランスを整えたり、

不要なリヴォルや黒胆汁を取り除く

ための治療法としてレシピが

書かれています。

 

この治療法で治らないなら、死ぬか、

神がその人に治れと思っていないかです

 

という強烈な書き出しから始まります。

 

ここでやっとハーブが登場します🌿

(ここまで長かった…。)

 

 

レシピには、ハーブだけでなく、

小麦粉・ワインにビール・動物性の脂肪、

オリーブオイル、蜂蜜にクジラ、

しまいにはハエやカタツムリ、鳥の足の

粉末まで出てきちゃいます。

 

ただただ煎じて飲んでください、という

治療法は少なく、かなり手の込んだ

料理レベルのレシピ。

外用として患部に塗ったり、

内服して使います。

 

身近なメディカルハーブでいくと、

ウスベニアオイ、セージ、フェンネル、

オレガノ、ローリエ、カモミールなど

が登場します。

 

以上があらすじのざっくりとした解説です。

 

🌿ホリスティックとは

 

本の帯にも書いてある通り、

この本はホリスティック医学の古典

と位置付けられています。

 

“ホリスティック”という言葉は

ギリシャ語のholos(全体)を語源に

しており、ここから

「whole(全体の)」「health(健康)」

「heal(癒す)」「holy(聖なる)」等という

言葉が派生しているそうです。

 

つまり、健康とは、常に全体的なもの

として捉えられるべきだ、という事。

 

近代医学では、お腹が痛いと胃薬を

出すし、皮膚炎であればかゆみ止め

や炎症を抑える薬を使いますよね。

 

これはホリスティックとはある意味

反対の考え方で、不健康を身体の

中の一部品の故障とみなす

“機械論”と呼ばれるものです。

 

科学の地位が確立されて

近代医学が台頭するまでは、

インドではアーユルヴェーダ、

アラビアはユナニ医学、中国は中医学、

ヨーロッパにも西欧医学があり、

これらの医学はしばしば

宗教や宇宙、呪術等との全体的な調和

をテーマに考えられていました。

 

医学の祖であるヒポクラテスの

体液病理説では

「血液」「粘液」「黄胆汁」「黒胆汁」、

 

アーユルヴェーダでは

「ヴァータ(風)」

「ピッタ(火)」

「カパ(水)」

のエネルギー(ドーシャ)、

 

中医学では「気」「血」「水」、

 

これらのバランスが保たれることで

健康でいられると説いています。

 

各要素の全体的な調和という点で、

ヒルデガルトの4つの体液論はこれらの

代替医療とよく似ていますね。

 

これが、ホリスティック医学の古典と

いわれる由縁です。

 

🌿ポイントをおさらい🌿

 

もう一度まとめると、

 

万物は4つの元素からできており、
宇宙も人間もひとつながりの流れの
なかで生きている。
 
人間の病気は、アダムの原罪
から来ている。
 
人間の4つの体液のバランスの
調和が健康を保つ。
全体を捉え調和を重んずる
ヒルデガルトの考えは、
ホリスティック(ホーリズム)の
流れを受け継ぐものである。
 

こんな感じでしょうか。。

 

解説を読むと、『病因と治療』が

グッと読みやすくなると思います。

 

病気の表面的な症状だけでなく、

根本的になぜ病気になるのか、

考えさせられる1冊だと思います。

 

 

 
こちらの本も、要所要所をやさしく
解説しています。
 

 
 

 

今回はちょっと真面目に、

今日に残る古典の解説記事でした。

 

近代医学が主流になった

今だからこそ、この本が

なおいっそう脚光を浴びるのかな

と思います。

 

ではでは~🖐💨

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